第5回

「翼あるもの『バートルビーと仲間たち』」

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本や文学への深い愛情

「翼あるもの」は、作者の福田尚代が本を読みながら無意識にページを折っていたことから始まり、100点以上制作されてきたシリーズだ。一ページ折りたたまれるごとに、文章は隠されてゆき、偶発的に残された1行だけを鑑賞者は目にすることができる。

福田尚代《翼あるもの『バートルビーと仲間たち』》2013年 うらわ美術館蔵

福田は、使いかけの消しゴムや色鉛筆、何度も読んだ本といった、福田本人と長い時間を共有した物を使って、言葉や文字にまつわる作品を制作し続けてきた。浦和に生まれ育ち、現在もさいたま市に住む作家として、また当館の作品収集方針の一つである「本をめぐるアート」の作家として、福田は当館とゆかりの深い作家だ。
本に手を加える行為は、ともすると不遜な行為として受け取られてしまうかもしれない。しかしながら、子どもの頃から本に特別な思いを持ち、「その本と自分との関係は、人との関係くらい強いもの」と語る福田の行為は、本や文字への深い愛情から起こったものだ。この作品は、ハーマン・メルヴィルの短編集に登場し、福田が愛してやまないという「バートルビー」がモチーフとなっている。
本作の「―これは幻の本に関するバートルビー芸術の見事な一行である。」という一文は謎めいて、様々に想像を掻き立てられる。「バートルビーと仲間たち」(エンリーケ・ビラ=マタス著、原著版2000年刊)を読んだことがなかったとしても、「幻の本」、「バートルビー芸術」という言葉を自由に解釈して、それぞれ思索を巡らして欲しい。

(うらわ美術館学芸員 滝口明子)

「日々の生活とアートをつなぐ:うらわ美術館がいまできること ⑤翼あるもの『バートルビーと仲間たち』」埼玉新聞 2020年7月28日10面

※作品名表記に誤りがありました。訂正してお詫び申し上げます。
(誤)「翼のあるもの」 (正)「翼あるもの」

第1回「桐の咲ける風景」

高田誠《桐の咲ける風景》1933年 油彩、カンヴァス うらわ美術館蔵

第2回「草合(くさあわせ)」

橋口五葉《草合》(夏目金之助(漱石)著 春陽堂刊) 1908年 うらわ美術館蔵

第4回「春」

瑛九《春》1959年 油彩、カンヴァス 60.7×72.7㎝ うらわ美術館蔵

第5回「翼あるもの『バートルビーと仲間たち』」

福田尚代《翼あるもの『バートルビーと仲間たち』》2013年 うらわ美術館蔵