第4回

「春」

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無数の点で描く 生の喜び

画面全体に無数の点が広がっている。黄色、だいだい色、肌色、そして青や緑。わずか5ミリほどの無数の点が、薄く溶かれた透明感のある絵の具で描かれている。さらに、やや大きめの黒や青の楕円状の丸が散らばり、それらは凹凸のある厚塗りの絵の具で塗られている。

瑛九《春》1959年 油彩、カンヴァス 60.7×72.7㎝ うらわ美術館蔵

この絵の作者、瑛九(本名、杉田秀夫)は、1911年に宮崎で生まれ、1951年に埼玉へ移り住んだ画家である。次々と画題と様式を変えて油彩を描き、あわせて写真や版画、ガラス絵などの実験的な作品や執筆活動を手がけるなど、多彩な表現活動を精力的に行った。
1960年に48歳で亡くなるまで、アトリエを兼ねた小さな浦和の家で瑛九が生み出した作品は膨大な数に上る。晩年には小さな点のみで画面を構成する独自の抽象画にたどり着き、何万、何十万もの点の集合体による大作を複数手がけた。身を削るように、点を一つ一つ筆で置いていった瑛九は、この作品を描いた年の秋、体調を崩して入院する。瑛九は病床で、自分の絵をアトリエから「外に出して、森のように囲み、その中に僕はいたい」と語ったという。
この作品には具体的な形は何も描かれていない。そこから感じられるのは、タイトルが示す通り春のように明るく浮き立つ高揚感だ。カンバスに置かれた微細な点は、空中の光の粒のようにも見える。あふれる光、揺らぐ大気、爽やかに薫る風さえも感じられるこの作品からは、自然への賛美、生の喜びが伝わってくるようだ。

(うらわ美術館学芸員 山田志麻子)

「日々の生活とアートをつなぐ:うらわ美術館がいまできること ④春」埼玉新聞 2020年7月28日10面

第1回「桐の咲ける風景」

高田誠《桐の咲ける風景》1933年 油彩、カンヴァス うらわ美術館蔵

第2回「草合(くさあわせ)」

橋口五葉《草合》(夏目金之助(漱石)著 春陽堂刊) 1908年 うらわ美術館蔵

第4回「春」

瑛九《春》1959年 油彩、カンヴァス 60.7×72.7㎝ うらわ美術館蔵

第5回「翼あるもの『バートルビーと仲間たち』」

福田尚代《翼あるもの『バートルビーと仲間たち』》2013年 うらわ美術館蔵