第1回

「桐の咲ける風景」

;
清新な魅力 疲れ癒やす

画面の中央、前景に大きく描かれているのは、天に向かってすんなりと枝幹を伸ばした華奢な立ち姿が印象的な桐である。枝先の薄紫色の房のように見えるのは、可憐な小花が連なって咲き満開を迎えた様子を捉えたものだ。桐の花の見ごろは5~6月上旬。空は青く澄んで絹のように光り、遠景の木々は若葉の緑が瑞々しく茂っている。初夏の風景の爽やかさが感じられる作品だ。

高田誠《桐の咲ける風景》1933年 油彩、カンヴァス うらわ美術館蔵

そう、ここに描かれているのは、今年は多くの人が外出自粛のために見逃したであろう季節の風景である。緊急事態宣言は解除されたが、完全に元通りの生活に戻るわけではなく、多くの人がストレスを抱えやすい状況だともいわれている。今日はこの作品を通して、桐の花の薫る街並みを想像したり、描かれた当時と今の風景の違いについて思いを馳せたり……ちょっとした気分転換のきっかけにしてほしい。
なお、この作品が鑑賞者に与える清々しさは、初夏の風景によるところだけではない。この作品の制作者・高田誠(1913~92)は、戦後の洋画壇をリードし、埼玉の美術の振興発展に大きく貢献した、地域ゆかりの芸術家を代表する画家である。この作品は高田が点描による独自の表現様式を確立するずいぶん前、20歳頃の若描きの作品だ。のびやかで力強い筆致や、細かな部分を省略した色面による大胆な構成等、粗削りながら気迫に満ちた若々しさが感じられ、初夏の季節感と相まってフレッシュな魅力に満ちている。

(うらわ美術館学芸員 松原知子)

「日々の生活とアートをつなぐ:うらわ美術館がいまできること ①桐の咲ける風景」埼玉新聞 2020年7月7日10面

第1回「桐の咲ける風景」

高田誠《桐の咲ける風景》1933年 油彩、カンヴァス うらわ美術館蔵

第2回「草合(くさあわせ)」

橋口五葉《草合》(夏目金之助(漱石)著 春陽堂刊) 1908年 うらわ美術館蔵

第4回「春」

瑛九《春》1959年 油彩、カンヴァス 60.7×72.7㎝ うらわ美術館蔵

第5回「翼あるもの『バートルビーと仲間たち』」

福田尚代《翼あるもの『バートルビーと仲間たち』》2013年 うらわ美術館蔵